くろねこ
黒猫

冒頭文

「奥さん、謝れなら謝りまんが、それぢやお宅の飼猫だすかいな、これ」 荷車曳(ひ)きの爺さんは、薄ぎたない手拭(てぬぐひ)で、額の汗を拭(ふ)き拭き、かう言つて、前に立つた婦人の顔を敵意のある眼で見返しました。二人の間には、荷車の轍(わだち)に轢(ひ)き倒された真つ黒な小猫が、雑巾のやうに平べつたくなつて横たはつてゐました。 六月のむしむしする日の午後でした。私は大阪のある場末の、小

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 泣菫随筆
  • 冨山房百科文庫43、冨山房
  • 1993(平成5)年4月24日