一 私の近くにアメリカ帰りの老紳士が住んでをります。その人が今年の春六甲山へ登つて、その帰りにあたりの松林で小鳥の巣を見つけました。巣にはやつと羽が生えかけたばかしの雛(ひな)が四羽をりました。雛は老紳士を見ると、口を一ぱいに開けて、ちいちいと鳴きました。 「可愛い奴だな。俺の顔を見ると、あんなにものを欲しがつてゐるよ」 老紳士は何か持ち合せはないかしらと袂をさぐつてみましたが、