りんぷん
鱗粉

冒頭文

一 海浜都市、K——。 そこは、この邦(くに)に於(お)ける最も華やかな、最も多彩な「夏」をもって知れている。 まこと、K——町に、あの爽やかな「夏」の象徴であるむくむくと盛り上った雲の峰が立つと、一度にワーンと蜂の巣をつついたような活気が街に溢(あふ)れ、長い長い冬眠から覚めて、老(おい)も若きも、町民の面(おもて)には、一様(よう)に、何(なに)となく「期待」が輝くの

文字遣い

新字新仮名

初出

「探偵春秋」春秋社、1937(昭和12)年3月号

底本

  • 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2003(平成15)年6月10日