ふるきず
古傷

冒頭文

——私は自分の弱い心を誤魔化す為に、先刻(さっき)から飲めもしない酒を飲み続けていた。 第三高調波(サードハーモニックス)を描く放送音楽(ラジオミウジック)…… 蓄電器(コンデンサアー)のように白々(しらじら)しく対立した感情…… 溷濁(こんだく)した恋情と、ねばねばする空気…… 『なに考えてんだィ、さあもう一杯』 内田君は、兎もすれば沈み勝ちの私を、とろ

文字遣い

新字新仮名

初出

「自由律」1932(昭和7)年7月号

底本

  • 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2003(平成15)年6月10日