じさつ
自殺

冒頭文

一 それは何処(どこ)であったか、ひどく荒涼とした景色であった。灰色に鬱々(うつうつ)とした雲は、覆(おお)いかぶさるように空を罩(こ)め、細い白茶(しらちゃ)けた路(みち)はひょろひょろと足元を抜けて、彼方(かなた)の骸骨(がいこつ)のような冬の森に消えあたりには、名も知らぬ雑草が、重なりあって折れ朽(くち)ていた。      × 中田(なかだ)は、なぜそんなところへ行ったのか

文字遣い

新字新仮名

初出

「秋田魁新報夕刊」1935(昭和10)年1月23~26日

底本

  • 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2003(平成15)年6月10日