しょくみんふ
蝕眠譜

冒頭文

一 (一体、どうしたのだろう……) 私は、すくなからず、不安になって来た。あの親友黒住箒吉がまるで、ここ二三ヶ月というもの消息不明になってしまったのだ。 私が、自分から「親友」などと呼びかけるのは、聊(いさ)さかキザだけれど、でも、彼には、あの変屈な金持黒住箒吉には、友だちというものは、この私一人しかいない筈なのだ。 黒住と私とは二代続きの、おやじから受けついだ交友であ

文字遣い

新字新仮名

初出

「探偵文学」探偵文学社、1935(昭和10)年12月号

底本

  • 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2003(平成15)年6月10日