しょくぶつにんげん
植物人間

冒頭文

一 鬱蒼と膨れあがって見える雑木の森が、左右から迫っている崖に地肌も見えぬばかり覆いかぶさっていた。なんとなく空気までもが、しっとりとした重みを持っているようにさえ思われる。いかにも南国らしい眩しく輝く太陽も、幾重にも繁った葉や枝や幹に遮られて川島の足許に落ちて来るまでにはすっかり弱められていた。 川島は、両肩に喰い込んで来るリュックサックを、時々ゆすり上げるようにしながら、舌打ち

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物」1940(昭和15)年11月号

底本

  • 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2003(平成15)年6月10日