したうちする
舌打する

冒頭文

チェッ、と野村は舌打をすることがよくあった。彼は遠い昔の恥かしかった事や、口惜(くや)しかったことを、フト、なんの連絡もなしに偲い出しては、チェッと舌打するのである。 (あの時、俺はナゼ気がつかなかったんか、も少し俺に決断があったら……) 彼はよくそう思うのであった。けれど夢の中で饒舌であるように、現実では饒舌ではなかった。女の人に対しても口では下手なので、手紙をよく書いた。けれど矢っ

文字遣い

新字新仮名

初出

「自由律」1932(昭和7)年8月号

底本

  • 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2003(平成15)年6月10日