くさったかげろう
腐った蜉蝣

冒頭文

一 黄昏(たそがれ)——その、ほのぼのとした夕靄(ゆうもや)が、地肌からわき騰(のぼ)って来る時間になると、私は何かしら凝乎(じっ)としてはいられなくなるのであった。 殊(こと)にその日が、カラリと晴れた明るい日であったならば猶更(なおさら)のこと、恋猫のように気がせかせかとして、とても家の中に籠(こも)ってなぞいることは出来なかった。さも、そのあたりに昼の名残(なごり)が落ちてい

文字遣い

新字新仮名

初出

「探偵春秋」春秋社、1937(昭和12)年8月号

底本

  • 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2003(平成15)年6月10日