あな |
穴 |
冒頭文
毎日毎日、気がくさくさするような霖雨(ながあめ)が、灰色の空からまるで小糠(こぬか)のように降り罩(こ)めている梅雨時(つゆどき)の夜明けでした。丁度(ちょうど)宿直だった私は、寝呆(ねぼ)け眼(まなこ)で朝の一番電車を見送って、やれやれと思いながら、先輩であり同時に同僚である吉村君と、ぽつぽつ帰り支度にかかろうかと漸(ようや)く白みかけた薄墨(うすずみ)の中に胡粉(ごふん)を溶かしたような梅雨の
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」博文館、1938(昭和13)年9月号
底本
- 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2003(平成15)年6月10日