もりせんせい |
森先生 |
冒頭文
或夏の夜、まだ文科大学の学生なりしが、友人山宮允君と、観潮楼へ参りし事あり。森先生は白きシャツに白き兵士の袴をつけられしと記憶す。膝の上に小さき令息をのせられつつ、仏蘭西の小説、支那の戯曲の話などせられたり。話の中、西廂記と琵琶記とを間違え居られし為、先生も時には間違わるる事あるを知り、反って親しみを増せし事あり。部屋は根津界隈を見晴らす二階、永井荷風氏の日和下駄に書かれたると同じ部屋にあらずやと
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ
- 講談社文芸文庫、講談社
- 1995(平成7)年1月10日