えぐちかんしのこと |
江口渙氏の事 |
冒頭文
江口は決して所謂快男児ではない。もっと複雑な、もっと陰影に富んだ性格の所有者だ。愛憎の動き方なぞも、一本気な所はあるが、その上にまだ殆病的な執拗さが潜んでいる。それは江口自身不快でなければ、近代的と云う語で形容しても好い。兎に角憎む時も愛する時も、何か酷薄に近い物が必江口の感情を火照らせている。鉄が焼けるのに黒熱と云う状態がある。見た所は黒いが、手を触れれば、忽その手を爛(ただ)らせてしまう。江口
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ
- 講談社文芸文庫、講談社
- 1995(平成7)年1月10日