えいきょ
盈虚

冒頭文

衞の靈公の三十九年と云ふ年の秋に、太子蒯聵(くわいぐわい)が父の命を受けて齊に使したことがある。途に宋の國を過ぎた時、畑に耕す農夫共が妙な唄を歌ふのを聞いた。 既定爾婁豬 盍歸吾艾豭 牝豚はたしかに遣つた故 早く牡豚を返すべし 衞の太子は之を聞くと顏色を變へた。思ひ當ることがあつたのである。 父・靈公の夫人(といつても太子の母ではない)南子(なんし)

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「政界往来」1942(昭和17)年7月

底本

  • 中島敦全集第一卷
  • 筑摩書房
  • 1976(昭和51)年3月15日