にかてんいんてんきゅうこうべっけん
二科展院展急行瞥見

冒頭文

九月三日は朝方荒い雨が降った、やがて止んだが重苦しい蒸暑さがじりじりと襲って来た。仕事をしていると『中央美術』から電話が掛かって今日が二科会展覧会の招待日であることを想い出させられた。数年前まではこの日を指折り数えて楽しみにしていたのが、近年どうしたわけか、急に興味が減退した。今年はとうとう肝心の日をすっかり忘れてしまっていたのである。甚だ申訳ない次第である。これは一つには自分がだんだん年を取って

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央美術」1933(昭和8)年10月1日

底本

  • 寺田寅彦全集 第八巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年7月7日