むくのみのおもいで
椋の実の思出

冒頭文

それは秋のこと——。丁度尋常五年の今頃だつた。いつもの樣に、背戸川の堤の上に青々と繁つて高く突き立つて居る椋の木に登つて、繁と、正彦と、勝次と、それから僕との四人は樂しく遊んで居た。 背戸川は長い照りでかんからだつた。川上の方からころがつて來た小さな圓い礫が一ぱい敷きつめてゐる上を、赤とんぼが可愛い影を落しながらスイスイと飛んでゐた。 皆は何事も忘れて、たゞ椋の實を採る事に夢中

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「柊陵 第九号」1928(昭和3)年2月

底本

  • 校定 新美南吉全集第二巻
  • 大日本図書
  • 1980(昭和55)年6月30日