せんにんばり
千人針

冒頭文

去年の暮から春へかけて、欠食児童のための女学生募金や、メガフォン入りの男学生の出征兵士や軍馬のための募金が流行したが、これらはいつの間にか下火になった。そうしてこの頃では到る処の街頭で千人針(せんにんばり)の寄進が行われている。これは男子には関係のないだけに、街頭は街頭でも、何となくしめやかにしとやかに行われている。それだけに救世軍の鍋などとはよほどちがった感じを傍観者に与えるものである。如何にも

文字遣い

新字新仮名

初出

「セルパン」1932(昭和7)年4月

底本

  • 寺田寅彦全集 第七巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年6月5日