じょなん
女難

冒頭文

一 今より四年前のことである、(とある男が話しだした)自分は何かの用事で銀座を歩いていると、ある四辻(よつつじ)の隅(すみ)に一人の男が尺八を吹いているのを見た。七八人の人がその前に立っているので、自分もふと足を止めて聴(き)く人の仲間に加わった。 ころは春五月の末で、日は西に傾いて西側の家並みの影が東側の家の礎(いしずえ)から二三尺も上に這(は)い上っていた。それで尺八を吹く男の

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝界」1903(明治36)年12月

底本

  • 日本の文学 5 樋口一葉 徳富蘆花 国木田独歩
  • 中央公論社
  • 1968(昭和43)年12月5日