クラリモンド
クラリモンド

冒頭文

兄弟、君はわしが恋をした事があるかと云ふのだね、それはある。が、わしの話は、妙な怖しい話で、わしもとつて六十六になるが、今でさへ成る可く、其記憶の灰を掻き廻さないやうにしてゐるのだ。君には、わしは何一つ分隔(わけへだ)てをしないが、話が話だけに、わしより経験の浅い人に話しをするのは、実はどうかとも思つてゐる。何しろわしの話の顛末(いきさつ)は、余り不思議なので、わしが其事件に現在関係してゐたとは自

文字遣い

新字旧仮名

初出

「クレオパトラの一夜」新潮文庫、新潮社、1914(大正3)年10月16日

底本

  • 芥川龍之介全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1995(平成7)年11月8日