うめりょうのはなし |
梅龍の話 |
冒頭文
著(つ)いた晩はどうもなかつたの。繪端書屋の女の子が、あたしのお煎餅(せんべ)を泥坊したのよ。それをあたしがめつけたんで大騷ぎだつたわ。でも姐(ねえ)さんが可哀さうだから勘辨してお遣りつて言ふから、勘辨してやつたの。⦅赤坂のお酌梅龍が去年箱根塔の澤の鈴木で大水に會つた時の話をするのである。姐さんといふのは一時は日本一とまで唄はれた程聞えた美人で、年は若いが極めて落ちついた何事にも襤褸(ぼろ)を見せ
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「中央公論」1911(明治44)年12月
底本
- 日本現代文學全集34 岡本綺堂・小山内薫・眞山青果集
- 講談社
- 1968(昭和43)年6月19日