じんあいとひかり
塵埃と光

冒頭文

昔ギリシアの哲学者ルクレチウスは窓からさしこむ日光の中に踊る塵埃(じんあい)を見て、分子説の元祖になったと伝えられている。このような微塵(みじん)は通例有機質の繊維や鉱物質の土砂の破片から成り立っている。比重は無論空気に比べて著しく大きいが、その体積に対して面積が割合に大きいために、空気の摩擦の力が重力の大部分を消却し、その上到るところに渦のような気流があるために永く空中に浮游しうるのである。その

文字遣い

新字新仮名

初出

「科学知識」1922(大正11)年5月1日

底本

  • 寺田寅彦全集 第六巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年5月6日