ひとつのやくそく
一つの約束

冒頭文

難破して、わが身は怒濤に巻き込まれ、海岸にたたきつけられ、必死にしがみついた所は、燈台の窓縁である。やれ、嬉しや、たすけを求めて叫ぼうとして、窓の内を見ると、今しも燈台守の夫婦とその幼き女児とが、つつましくも仕合せな夕食の最中である。ああ、いけねえ、と思った。おれの凄惨な一声で、この団欒(だんらん)が滅茶々々になるのだ、と思ったら喉(のど)まで出かかった「助けて!」の声がほんの一瞬戸惑った。ほんの

文字遣い

新字新仮名

初出

青森県某誌、1944(昭和19)年頃

底本

  • 道化の精神
  • 大和出版
  • 1992(平成4)年6月30日