いけぶくろのかい
池袋の怪

冒頭文

安政の大地震の翌(あく)る年の事で、麻布の某藩邸に一種の不思議が起った。即ち麻布六本木に西国某藩の上屋敷があって、ここに先殿(せんとの)のお部屋様が隠居所として住って居られたが、幾年来別に変った事もなく、怪しい事もなく、邸内無事に暮していた。然(しか)るにその年の夏のはじめ、一匹の蛙(かわず)が椽(えん)から座敷へ這上って、右お部屋様の寝間の蚊帳(かちょう)の上にヒラリと飛び上ったので、取あえず侍

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝倶楽部」1902(明治35)年4月

底本

  • 文藝別冊[総特集]岡本綺堂
  • 河出書房新社
  • 2004(平成16)年1月30日