『はるとしゅら』ほい
『春と修羅』補遺

冒頭文

手簡 雨がぽしゃぽしゃ降ってゐます。心象の明滅をきれぎれに降る透明な雨です。ぬれるのはすぎなやすいば、ひのきの髪は延び過ぎました。私の胸腔は暗くて熱くもう醗酵をはじめたんぢゃないかと思ひます。雨にぬれた緑のどてのこっちをゴム引きの青泥いろのマントがゆっくりゆっくり行くといふのは実にこれはつらいことなのです。あなたは今どこに居られますか。早くも私の右のこの黄ばんだ陰の空間にまっすぐに立ってゐられます

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 宮沢賢治全集1
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年2月26日