りんじゅうのたなかしょうぞう |
| 臨終の田中正造 |
冒頭文
直訴の日 君よ。 僕が聴いて欲しいのは、直訴後の田中正造翁だ。直訴後の翁を語らうとすれば、直訴当日の記憶が、さながらに目に浮ぶ。 明治三十四年十二月十日。この日、僕が毎日新聞の編輯室に居ると、一人の若い記者が顔色を変へて飛び込んで来た。 『今、田中正造が日比谷で直訴をした』 居合はせた人々から、異口同音に質問が突発した。 『田中はドウした』『田中は無事だ。多勢の警官に囲まれて、直ぐ警察
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論」1933(昭和8)年9月
底本
- 近代日本思想大系 10 木下尚江集
- 筑摩書房
- 1975(昭和50)年7月20日