みえざるひと
見えざる人

冒頭文

一 ロンドン・キャムデン町(まち)なる二つの急な街の侘しい黄昏の中に、角にある菓子屋の店は葉巻の端のように明るかった。あるいはまた花火の尻のように、と言う方がふさわしいかもしれない。なぜなら、その光は多くの鏡に反射して、金色やはなやかな色に彩どられたお菓子の上におどっていた。この火の様な硝子に向って多くの浮浪少年等の鼻が釘づけにされるのであった。あらゆるチョコレートはチョコレートそれ自身

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 世界探偵小説全集 第九卷 ブラウン奇譚
  • 平凡社
  • 1930(昭和5)年3月10日