パリにて
巴里にて

冒頭文

巴里の良人の許へ着いて、何と云ふ事なしに一ヶ月程を送つて仕舞つた。東京に居た自分、殊に出立前三月程の間の忙(せは)しかつた自分に比べると、今の自分は餘りに暇があるので夢の樣な氣がする。自分の手に一日でも筆の持たれない日があらうとは想像もしなかつたのに、此處へ來てからは全く生活の有樣が急變した。其れが氣樂かと云ふと反對に何だか心細い樣な不安な感が終始附いて廻る。好きな匂の高い煙草も仕事の間に飮んだ時

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 定本 與謝野晶子全集 第二十卷 評論感想集七
  • 講談社
  • 1981(昭和56)年4月10日