大正十二年九月一日、天柱拆(さ)け地維欠くとも言うべき一大凶変が突如として起り、首都東京を中心に、横浜、横須賀の隣接都市をはじめ、武相豆房総、数箇国の町村に跨がって、十万不冥の死者を出した災変を面(ま)のあたり見せられて、何人か茫然自失しないものがあるだろうか。 世俗の怖れる二百十日(とおか)の前一日、二三日来の驟雨(しゅうう)模様の空がその朝になって、南風気(みなみげ)の険悪な空に変り