はるのひのさしたおうらいをぶらぶらひとりあるいている
春の日のさした往来をぶらぶら一人歩いてゐる

冒頭文

春の日のさした往来をぶらぶら一人歩いてゐる。向うから来るのは屋根屋の親かた。屋根屋の親かたもこの節は紺の背広に中折帽をかぶり、ゴムか何かの長靴をはいてゐる。それにしても大きい長靴だなあ。膝——どころではない。腿も半分がたは隠れてゐる。ああ云ふ長靴をはいた時には、長靴をはいたと云ふよりも、何かの拍子に長靴の中へ落つこつたやうな気がするだらうなあ。 顔馴染の道具屋を覗いて見る。正面の紅木の棚

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 芥川龍之介全集 第十一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年9月9日発行