ひょうが
氷河

冒頭文

一 市街の南端の崖の下に、黒龍江が遥かに凍結していた。 馬に曳かれた橇が、遠くから河の上を軽く辷って来る。 兵営から病院へ、凍った丘の道を栗本は辷らないように用心しい〳〵登ってきた。負傷した同年兵たちの傷口は、彼が見るたびによくなっていた。まもなく、病院列車で後送になり、内地へ帰ってしまうだろう。——病院の下の木造家屋の中から、休職大佐の娘の腕をとって、五体の大きいメリケ

文字遣い

新字新仮名

初出

1928(昭和3)年11月

底本

  • 黒島傳治全集 第一巻
  • 筑摩書房
  • 1970(昭和45)年4月30日