むらさきだいなごん
紫大納言

冒頭文

昔、花山院の御時、紫の大納言という人があった。贅肉(ぜいにく)がたまたま人の姿をかりたように、よくふとっていた。すでに五十の齢であったが、音にきこえた色好みには衰えもなく、夜毎におちこちの女に通った。白々明けの戻り道に、きぬぎぬの残り香をなつかしんでいるのであろうか、ねもやらず、縁にたたずみ、朝景色に見惚れている女の姿を垣間(かいま)見たりなどすることがあると、垣根のもとに忍び寄って、隙見する習い

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 坂口安吾全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1990(平成2)年2月27日