くらのにかい |
蔵の二階 |
冒頭文
焼跡の中に、土蔵が一つある。この土蔵も、戦災の焔をかぶったので、ずいぶん破損している。上塗りの壁土は殆んど剥落して、中塗りの赤土や繩が露出し、屋根瓦も満足でなく、ひょろ長い雑草が生えて風にそよいでいる。二階の窓には、錆び捩れた鉄格子がついていて、その外側に白木の小さな庇が取り附けてあるので、一層さびれて見える。中は薄暗いらしく、昼間でもぽつりと電灯がともってることが多い。窓の鉄格子からは、時折、年
文字遣い
新字新仮名
初出
「思索」1949(昭和24)年4月
底本
- 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
- 未来社
- 1965(昭和40)年6月25日