ねこすてざか |
猫捨坂 |
冒頭文
病院の裏手に、狭い急な坂がある。一方はコンクリートの塀で、坂上の塀外には数本の椎が深々と茂っている。他方は高い崖地で、コンクリートで築きあげられ、病院の研究室になっている。坂の中央に、幅二尺ほどの御影石が敷いてあり、そこが人間の通路で、両側には雑草が生え、石炭灰や塵芥がつもり、陶器の破片が散らばっている。全体が陰湿な感じだ。仔猫や病み猫などがしばしば捨てられている。坂の名は何というのか分らず、恐ら
文字遣い
新字新仮名
初出
「新文学」1948(昭和23)年12月
底本
- 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
- 未来社
- 1965(昭和40)年6月25日