ヘヤーピンいっぽん
ヘヤーピン一本

冒頭文

一本のヘヤーピン、ではない、ただヘヤーピン一本、そのことだけがすっきりと、俺の心に残ったのは、何故であろうか。そのことだけが純粋で、他はみな猥雑なのであろうか。 パイプが煙脂でつまっていた。廊下に出てみると、女中が通りかかった。それを呼びとめて、パイプを振ってみせた。 「これが、つまっちゃったんだ。なにか、通すものはないかね。針金かなにか、なんでもいいんだが。」 女中はちょっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「人間喜劇」1948(昭和23)年10月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日