まつりのよる
祭りの夜

冒頭文

政代の眼は、なにかふとしたきっかけで、深い陰を宿すことがあった。顔は美人というほどではないが整っていて、皮膚は白粉やけしながら磨きがかかっており、切れの長い眼に瞳がちらちら光り、睫が長く反り返っていて、まあ深みのない顔立なのだが、ちょっと瞬きをするとか、ふと考えこむとか、なにかごく些細なきっかけで、眼に深い陰が宿るのである。以前は芳町の芸妓で、戦争になって花柳界閉鎖後も、政界に暗躍してる八杉の世話

文字遣い

新字新仮名

初出

「日本小説」1948(昭和23)年4月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日