むらさきのびん
紫の壜

冒頭文

検察当局は私を、殺人罪もしくは自殺幇助罪に問おうとしている。私は自白を強いられている。だが、身に覚えないことを告白するのは、嘘をつくことだ。この期に及んで嘘をつきたくはない。軍隊生活では平然と嘘をつくことを教えられてきた。それを清算したい意味もあるのだ。私は真実だけを語りたい。 それにしても、当事者の私にとって明瞭な真実は、如何に僅かな些細なものであることか。それが私の悲しい不幸だ。しか

文字遣い

新字新仮名

初出

「明日」1948(昭和23)年1月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日