いわのほうめいし
岩野泡鳴氏

冒頭文

何でも秋の夜更けだつた。 僕は岩野泡鳴氏と一しよに、巣鴨行(すがもゆき)の電車に乗つてゐた。泡鳴氏は昂然(かうぜん)と洋傘の柄にマントの肘(ひぢ)をかけて、例の如く声高に西洋草花の栽培法だの氏が自得の健胃法だのをいろいろ僕に話してくれた。 その内にどう云ふ拍子だつたか、話題が当時評判だつた或小説の売れ行きに落ちた。すると泡鳴氏は傍若無人に、 「しかし君、新進作家とか何とか

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 芥川龍之介全集 第九巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年7月8日発行