せいにょにんぞう |
聖女人像 |
冒頭文
深々と、然し霧のように軽く、闇のたれこめている夜……月の光りは固よりなく、星の光りも定かならず、晴曇さえも分からず、そよとの風もなく、木々の葉もみなうなだれ眠っている……そういう真夜中に、はっきりと人の気配のすることがある。どこかで、ガラガラと雨戸を繰る音がする。ただそれきり。どこかで、数音の人声がする。ただそれきり。どこかで、廊下を歩く足音がする。ただそれきり。それきりだが、それ故にまた、深夜の
文字遣い
新字新仮名
初出
「群像」1947(昭和22)年11月
底本
- 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
- 未来社
- 1965(昭和40)年6月25日