はくもくれん
白木蓮

冒頭文

桃代の肉体は、布団の中に融けこんでいるようだった。厚ぼったい敷布を二枚、上に夜着と羽根布団、それらの柔かな綿の中に、すっぽりとはいっているので、どこに胴体があるのか四肢があるのか、見当がつかない。実は、体躯はそこにあるに違いないが、それも既に、死の冷却と硬直と分解に委ねられているだろう。それは彼女の肉体ではない。——肉体の喪失を、私はそこに感じた。 彼女の枕辺近くに坐った時の、その感じは

文字遣い

新字新仮名

初出

「芸術」1947(昭和22)年10月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日