どうひょう ――きんだいせつわ――
道標 ――近代説話――

冒頭文

ソファーにもたれてとろとろと居眠った瞬間に、木原宇一は夢をみました。森村照子と広い街道を歩いてる夢でした。今晩彼女と一緒に三浦行男氏を訪れることになっているし、しかもそれをどうしたものかと未だに迷っている、そういう意識があったからでありましょうか。そして夢の中の彼女は、背の高い大きな体躯で、巨木の幹のように泰然と構えていまして、不思議なことに、その容貌が全然分りませんでした。もっとも、夢の中では、

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸春秋」1947(昭和22)年4月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日