ひじょうのあい
非情の愛

冒頭文

椰子の実を灯籠風にくりぬいたのへぽつりと灯火をつけてる、小さな酒場「五郎」に名物が一つ出来た。名物といっても、ただ普通の川蟹で、しかも品切れのことが多い。千葉県下の河川で獲れるのだが、数量は少い。樽の底に水をひたひたに注ぎ、飯粒をばらまき、そこに飼っておくと、いつまでも元気よく生きている。それを、煠でて食べるのである。この川蟹が品切れになっても、一般に愛用される海蟹は決して店に置かなかった。——そ

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1947(昭和22)年1月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日