みずがめ ――きんだいせつわ―― |
水甕 ――近代説話―― |
冒頭文
仁木三十郎が間借りしていた家は、空襲中に焼け残った一群の住宅地の出外れにありました。それは小さな平家建てでしたが、庭がわりに広く、梅や桜や楓や檜葉などが雑然と植え込まれており、その庭続きにすぐ、焼け野原が展開していました。焼け野原はもう、処々に雑草の茂みを作りながら、小さく区切られた耕作地となり、麦や野菜類が生長していました。そして畑地と庭との間には、低い四つ目垣が拵えてあるきりでした。
文字遣い
新字新仮名
初出
「群像」1947(昭和22)年1月
底本
- 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
- 未来社
- 1965(昭和40)年6月25日