しらふじ ――きんだいせつわ――
白藤 ――近代説話――

冒頭文

草光保治は、戦時中に動員されて外地へ渡り、終戦後復員されて、二ヶ年半ぶりに東京へ戻ってきました。 「東京もずいぶん変ったでしょう。」 戦争の話やその他の話の末、周囲の者がきまって彼に向ける言葉は、それでした。東京もというのは、日本も、時勢も、人々も、その他いろいろなものを含めてのことでした。それに対して彼は、曖昧な微笑と曖昧な言葉とを返しました。 「そうですね……。」 彼は

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人文化」1946(昭和21)年10月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日