がけしたのいけ ――きんだいせつわ――
崖下の池 ――近代説話――

冒頭文

さほど高くない崖の下に、池がありました。不規則な形の池で、広さは七十坪あまり、浅いところが多く、最も深いところでも人の胸ほどでした。 崖から少し湧き水があるので、自然に池の水が替わり、下手からちょろちょろ流れ出ていました。その生きた水は、表面をすくい取れば澄んでおり、深みを覗けば薄く濁っていました。 この池、昔は、子供たちの遊び場所でした。それから、ちょっとした庭の一部となりま

文字遣い

新字新仮名

初出

「談論」1946(昭和21)年8月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日