たびだち ――きんだいせつわ――
旅だち ――近代説話――

冒頭文

今年二十四歳になる中山敏子には、終戦後二回ほど、縁談がありました。最初の話は、あまり思わしいものでなく、本人の耳に入れずに、母のもとで打ち切ってしまいました。二度目のは、副島の伯母さんから持ちこまれたもので、母もたいへん気乗りがし、副島さんの家で、それとなく、敏子と先方の当人とを会わせました。 先方の当人、筒井直介は、りっぱな人柄だそうでありました。副島の伯父さんが重役をしている会社と直

文字遣い

新字新仮名

初出

「人間」1946(昭和21)年6月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日