こぼく ――きんだいせつわ―― |
古木 ――近代説話―― |
冒頭文
終戦後、柴田巳之助は公職を去り、自宅に籠りがちな日々を送りました。隙に任せ、大政翼賛会を中心とした戦時中の記録を綴りかけましたが、それも物憂くて、筆は渋りがちでありました。一方、時勢を静観してみましたが、大きな転廻が感ぜられるだけで、将来の見通しは一向につきませんでした。そして索莫たる月日を過すうち、病気に罹りました。 初めは、ちょっとした感冒だと思われましたが、やがて不規則な高熱が続き
文字遣い
新字新仮名
初出
「暁鐘」1946(昭和21)年6月
底本
- 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
- 未来社
- 1965(昭和40)年6月25日