かんぱい ――きんだいでんせつ――
乾杯 ――近代説話――

冒頭文

終戦の年の暮、父の正吉が肺炎であっけなく他界した後、山川正太郎は、私生活のなかに閉じこもりました。訪客は避けず、公式な会合には顔を出さず、という態度です。時に、識り合いの文学者や科学者を訪れたり、焼け跡を彷徨したり、読書に夜を更かしたり、また常に、酒を飲みました。そして父の死後五十日目、突然、自宅でささやかな宴を催しました。 山の幸、野の幸、海の幸と言えば大袈裟ですが、街頭に栄えた闇市場

文字遣い

新字新仮名

初出

「世界文化」1946(昭和21)年3月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日