爪の先を、鑢で丹念にみがきながら、山口専次郎は快心の微笑を浮かべた。 ——盲目的に恋する者はいざ知らず、意識的に恋をする者は……。 この、意識的に恋をするという自覚が、なにか誇らしいものと感ぜられたのである。そして今や、それにふさわしいだけの身づくろいが出来上りつつあった。 手の爪をみがくのが終りである。足の爪はもうきれいにつんであった。顔はきれいに剃られて、香りのよ