たてふだ ――きんだいでんせつ――
立札 ――近代伝説――

冒頭文

揚子江の岸の、或る港町に、張という旧家がありました。この旧家に、朱文という男が仕えていました。 伝えるところに依りますと、或る年の初夏の頃、この張家の屋敷の一隅にある大きな楠をじっと眺めて、半日も佇んでいる、背の高い男がありました。それを、張家の主人の一滄が見咎めて、何をしているのかと尋ねました。 「楠を見ているのです。」と背の高い男は答えました。 「それは分っているが、なぜそん

文字遣い

新字新仮名

初出

「日本評論」1941(昭和16)年1月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日