みっつのひふん ――きんだいでんせつ――
三つの悲憤 ――近代伝説――

冒頭文

ある田舎に、阮という豪族の一家がありました。 阮家の一人息子の阮東は、志を立てて、都に出ました。そして学問をしながら、長官の周家に、書生として暮すことになりました。 その翌年の春さき、阮東は周家の令嬢素英と親しくなり、いつしか愛を語らう仲になりました。けれども、それも一ヶ月ばかりの間で、素英から急に疎んぜられるようになりました。 阮東は、頭髪を乱し、悲しみに胸をふくら

文字遣い

新字新仮名

初出

「知性」1940(昭和15)年10月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日