つばきのはなのあか
椿の花の赤

冒頭文

この不思議な事件は、全く思いがけないものであって、確かな解釈のしようもないので、それだけまた、深く私の心を打った。 別所次生が校正係として勤めていた書肆の編輯員に、私の懇意な者があり、別所について次のように私に語った。 「特にこれといって注意をひくような点は、見当りませんがね。ただ、しいて云えば、ひどくおとなしい男で、少しも他人と争うこともしませんでした。同僚に対してさえそうで、ま

文字遣い

新字新仮名

初出

「公論」1940(昭和15)年5月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第四巻(小説4)
  • 未来社
  • 1965(昭和40)年6月25日